歴史あるブランド牛肉で不動の地位を築いている「米沢牛」
「米沢牛」は山形県の置賜地方で肥育されているブランド牛肉で、日本三大和牛に挙げられることもあるほどの有名なブランド牛肉です。
山形県の置賜地方は四方を奥羽山脈などの山地で囲まれている盆地の為、寒暖差が大きく、また豪雪地帯でもあるため、ミネラル分が豊富な雪解け水が肉牛の生産にも適した土地柄になっています。
「米沢牛」のネット上の口コミ評価は…
※楽天市場・Yahoo!ショッピングなどのレビューから独自に算出
「米沢牛」も一級品の霜降り肉のため「柔らか!」という感想が多いです。
併せて肉・脂ともに甘みがあるという評価もあります。
ただし肉の部位で評価が分かれる傾向が高く、購入の際はお好みの部位や脂の多い少ないには注意したいところです。
一人の外国人教師が全国に広めた?「米沢牛」
山形県置賜地方では江戸時代に南部藩(現在の岩手県)から農耕用・運搬用に牛を導入して飼育を始めたのが、牛の生産の始まりだと言われています。この時代の牛は短角種系南部牛という種でした。
江戸時代は肉食文化が一般的ではないこともあり食されることはまずなかったようです。
明治時代になると文明開化の影響により牛肉を食する文化も広まっていきます。
1871年(明治4年)米沢県(江戸時代の旧米沢藩)の初代県知事上杉茂憲が旧米沢藩の藩校である「興譲館」に英語・地理の教師としてイギリスのチャールズ・ヘンリー・ダラス氏を招きます。
ダラス氏は興譲館在職中に米沢の牛をお抱えのコックに調理してもらい、ダラス氏自身はもちろん、興譲館の他の教師や学生にも振る舞い、西洋文化において牛肉の役割や栄養学についても語ったと言われています。
ダラス氏は米沢の牛の味をとても気に入っていたようです。
1875年(明治8年)に米沢での任期を終え横浜の外国人居留地に戻ることになった際、米沢の牛を横浜にいる他の仲間たちにも食べさせたいとの思いから牛を1頭曳いて帰ったそうです。
※外国人居留地…政府が外国人の居留および交易区域として特別に定めた一定地域をいう。主に開港された港の都市にあった。江戸幕府時代の1858年(安政5年)に制定され、1899年(明治32年)に廃止。
横浜居留地の外国人達も米沢の牛の味に大いに感動し、それがきっかけで米沢の牛がまずダラス氏のいる横浜居留地に送られるようになり、横浜から東京方面へ広まることになりました。
関東方面での需要の高まりに合わせて、米沢地方での肉牛生産も増えていくのです。
ダラス氏は米沢牛の恩人として後世まで言い伝えられ、2007年(平成19年)10月には、米沢市の松岬第二公園に御影石で制作されたダラス顕彰碑が建立されます。
1899年(明治32年)にに奥羽本線が開通すると、米沢から貨物列車で米沢の牛が大量に横浜に向けて運ばれるようになります。このころには「米沢牛」のブランド名は確立していたようです。
さらにこのころから今でも人気の駅弁として全国的にも有名な松川弁当店の「米沢牛駅弁」が販売を開始します。
ブランド名を守り続けて地理的表示保護制度に山形県初の登録
戦後山形県では各地で肉牛の飼育が盛んになります。飯豊牛・西川牛・天童牛・東根牛などの銘柄牛が存在しました。
このように県内でもブランド牛肉が乱立している状態も踏まえ、1962年(昭和37年)に山形県産の牛肉として、名称や規格、品質を統一するほうが有利になると考えた当時の山形県知事が、県内産肉牛は「総称 山形牛」と命名されることを提唱します。
当然反発が起きました。とくに「米沢牛」は明治時代からの歴史や、既に山形県はおろか全国的にもブランド名が浸透していたため、独自の生産基準や流通を確立して「米沢牛」のブランド名を維持していこうという動きが起きます。
そして1992年(平成4年)に「米沢牛銘柄推進協議会」が設立され、生産基準が統一されることになります。
このような活動もあり「米沢牛」は2017年(平成29年)3月には農林水産省の地理的表示保護制度の登録産品第26号として「特産松阪牛」「前沢牛」と共に登録されます。
※特産松阪牛は第25号、前沢牛は第28号
※地理的表示保護制度とは…地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度。
「米沢牛」の定義は
「米沢牛」の定義は下記のようになっていて、すべてを満たしたものだけに米沢牛購買証明書が付けられます。
- 飼育者は、置賜三市五町※に居住し米沢牛銘柄推進協議会が認定した者で、登録された牛舎での飼育期間が最も長いものとする。
- 肉牛の種類は、黒毛和種の未経産雌牛とする。
- 米沢牛枝肉市場若しくは東京食肉中央卸売市場に上場されたもの又は米沢市食肉センターでと畜され、公益社団法人日本食肉格付協会の格付けを受けた枝肉とする。
但し、米沢牛銘柄推進協議会長が認めた共進会、共励会又は研究会に地区を代表して出品したものも同等の扱いとする。
また、輸出用は米沢牛銘柄推進協議会が認めたと畜場とする。 - 生後月齢32ヶ月以上のもので公益社団法人日本食肉格付協会が定める3等級以上の外観並びに肉質及び脂質が優れている枝肉とする。
※置賜管内の三市五町:米沢市、南陽市、長井市、高畠町、川西町、飯豊町、白鷹町、小国町
引用:米沢牛銘柄推進協議会より
※BMS(牛脂肪交雑基準)霜降りの度合い・細かさなどで12段階で判定
米沢牛購買証明書には、個体識別番号・格付け・生産者・出荷先などが記載されています。
「米沢牛」が地域の産業の中心として確立
米沢市を中心とした置賜地方は「米沢牛」を長きにわたって産業の中心に据えて取り組んできました。
畜産業はもちろんのこと、「米沢牛」を扱う食肉業界・飲食店・温泉施設などが古くから存在し、発展してきた歴史があります。
同じ東北の「前沢牛」なども特定の地域でブランド牛肉を中心に発展してきた一例だと言えます。
山形県の一世帯当たりの牛肉消費量は東日本の中ではトップクラス。
山形県の郷土料理である「芋煮」に入っているのも牛肉です。
そんな山形県でブランド牛肉のトップランナーとして君臨してきた「米沢牛」。
「米沢牛」は脂肪の溶け出す温度が低くとろけるような味わいで、すき焼きやしゃぶしゃぶにすると、このとろける食感が堪能できそうです。